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  • 2012.03.16 Friday
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シナリオ 選択肢A-1

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 以下は私、零が現在級友のmochimimi(プログラマ)と、とろぼぶ(BGM担当)と作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
 感想・意見・質問、果ては批判もお待ちしています。お読み頂けた上で何か少しでも言いたいことがあれば遠慮なくお申し出下さい。
 なお、「ここ」がシナリオのみをまとめたHPになりますので、過去分をお読みいただけるようでしたらこちらへどうぞ。

 それでは以下シナリオです。

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・この喜びを氷緒子さんに伝える。


 まあ、順当にいけば氷緒子さんということになるのだろう。
 そうしなければ、何かとても恐ろしいことが起こりそうな気がした。
が、そうは言っても俺は別にその手の感覚に鋭い高校生ではないので、たぶん気の所為だろう。たぶん。
 でもまあ、選択肢の一番上に来るというのは間違い無いし。一刻も早く氷緒子さんに会いたいと思っていても何もおかしなことは無い。
 むしろ自然。
 自然にして当然の結果。
 当然の結果にして歴然の結末。
 もし並行世界(パラレル・ワールド)なんてものが存在したとして、ここで氷緒子さん以外の人を選ぶようでは、それは俺とは言えない。
 それは俺以外の何かだし、俺であるならば、確実に氷緒子さんを選ぶようでなければならない。
 何故ならば、俺は氷緒子さんの恋人だからだ。
 氷緒子さんが一番大事だし。
 自分よりも、なんて。
 世界を敵に回してでも、なんて。
 恥ずかしい恋をしているものだ、我ながら。
 あまりの恥ずかしさに言葉も無い。

「俺は……氷緒子さん無しでは生きられないんだ」
「…………」
「ゾッコン(死語)なんだ」
「…………」
「何か反応が欲しいな、凍矢」
「あー。いえ、特に何も」
「それは寂しい限りだ。お姉さんは哀しいよ」
 と大げさにうな垂れてみせる氷緒子さん。
 いきなり語りだしたから何かと思えば、モノローグだった。
 しかも俺の。
「寂しいって……そうですか」
 過去に何度か来ているが、放課後の保健室はどこか寂しげだ。
 それは夏から秋へと移り変わる季節の所為なのかも知れないし、単純に放課後になって利用する生徒達がいなくなったからかも知れない。
 あるいは一流の役者が舞台の雰囲気を作り上げるように、氷緒子さんが寂しげにしているからなのかも知れなかった。なんてことを言ってしまうと、いささか以上にセンチメンタルになってしまうだろうか。
 かすかに響くグラウンドからの声の中、氷緒子さんは咥(くわ)えていた煙草に火をつけた。
 煙草を咥えた状態でよくもあれだけ流暢に話せたものだ。
 咥え煙草で話すのは本当にむずかし――ごほんごほん。
 口から吹き出される煙よりも、直接燃えている部分からの煙の方が、実は紫煙(しえん)という表現が相応しいとは思う。
 まあ、どうでもいいことか。
「私としては、凍矢がそんなことを考えてくれているんじゃないかな、と思っていたのだが? そうであって欲しいとも思っていたわけだが」
「……えーと」
 反応に困る質問ではあった。
 正直に言うならば、可も無く不可も無く。
 当たらずとも遠からず。
 まあ、何と言いますか、ほぼ合ってるんだけどね。それを正直に言えたら苦労しないという話。
 高校生というのは、捻くれているものと相場が決まっている。
「それはそれとしても、モノマネ、上手かったんですね氷緒子さん」
「ん?」
 基本的に何でも出来る人だという認識はあったが、まさかモノマネ、しかも異性の声真似まで出来るとは。
 邦取氷緒子の辞書に不可能という文字は無いのかもしれない。
「不可能の文字が無いのは出版社のミスだよ」
「……っ」
「ちなみに読心は私の得意分野の一つだ」
「……ぐふぅ」
「声真似、鍵開け、読心の三つが私の基本スキルだ」
「どこぞの誰かさんみたいですね」
「まぁな。一応私のモデルの一人らしいんだが、その辺りは色々と危ない話になりそうだから止めておくか」
「そうですね」
 でもまあ、何がどうであっても氷緒子さんの基本スキルであることには変わりないのだろう。
 それならばそれで十分だ。十全だ。
「で、結局のところどうなんだ?」
「何がですか?」
「私に会いに来たのか? それとも本来の意味でここに来たのか?」
「…………」
 本来の意味っていうのは、つまり『具合が悪いのか』ということだろうけれど、その質問って引っ張るようなものなのだろうか。
 別にどちらでもいいような気もする。
 いやまあ、一応保険医であるところの氷緒子さん的には具合が悪い生徒だった場合、対処しなければならないわけだし、この確認は重要であると言えなくもないが。それにしたってそれならば質問の最初が『私に会いに来たのか?』である必要は無いだろうし。
 つまりからかわれているだけか?
「凍矢。凍矢。凍矢。女性というのはね、一般的に男性よりもリアリストだということはよく言われていることだけれど、つまりそれは男性よりもロマンチストだからこそ、それが現実には存在しないことを理解しているが故なのだと私は考えるわけだよ。分かるかい?」
「ええ、まあ。言っていることは分かりますけど。しかし随分と大胆な仮説ですね」
「仮説、なのかな。どちらかというと実感なのだけれど。つまるところ、女性というのは常に白馬の王子様に憧れているところがあるわけさ。少女趣味――というと幼児性愛者みたいだが、少女のような趣味と言われる憧憬や願望というのは案外根強くてね。三つ子の魂百までってね」
「んー。そういうものですか」
「そういうものなんだよ、存外ね」
「それはつまり?」
「ん?」
「いえ、結論は結論としても、それが正しいかどうかはまた別の話としても、この話自体の意味ってなんですか?」
「凍矢……。いや、凍矢。いやいや、凍矢。それを私に聞くのかい」
 吐き出す煙とともにカックリと頭を落とす氷緒子さん。
 ん。何か不味いことをしたらしい。困ったな。
「いや、いいんだよ。別に。若い頃はそうであるべきだ。苦労と恥は買ってでもしろってね。聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥。素直に知らないことや分からないことを聞くことが出来るというのは、それはそれで美点なのだから。しかしね、凍矢。私なんかは思うわけだよ。自らの無知を認めることが出来るというのは確かに美点だが、それと並列して場の空気を読むことというのも美点なのだと」
「はぁ」
「気の抜けた反応だな」
「ええ、まあ」
 実際よく分からないのだから、それは仕方ないと思う。
「凍矢、君は別に頭が悪いわけではない。察しが悪いわけでもない。しかしこう、鈍感だな」
「そうですか?」
「そうだよ」
「そうですか」
「…………」
「…………」
「…………」
「……?」
「愛してると言え!」
「――愛してます!」
「…………」
「…………」
「いや、虚しいものだな」
「すみません」
 なるほど、確かに鈍感と言われても仕方ないな。
 氷緒子さんは強い人だ。他人なんか必要ないというほどに強い人だ。
 けれどその強さは、しかし案外――いや、これは語るべきでも無いか。
「俺は氷緒子さんが好きですよ」
「そうか」
「好き過ぎて素直になれないくらいに好きです」
「そうか」
「素直になったら気持ち悪いと思うくらいに好きです」
「そうか」
「素直になっても、いいですか?」
「凍矢」
 氷緒子さんは灰皿に煙草を押し付けて、こちらを見つめる。
 そして、
「そういうのは、何も言わずにやることだ」と、いつものように格好良く言った。
 抱きしめた氷緒子さんは、煙草の香りがした。

「氷緒子さん」
 放課後の保健室は寂しい。
 それは、役目を終えたからだ。
 生徒達は帰宅するか、部活動に励んでいる。
 放課後の保健室は寂しい。
 それは、必要が薄くなったからだ。
 必要だけれど、必要とされないことを望む保健室。
 放課後の保健室は優しい。
 それは、元気で健康な生徒達を見守っているからだ。
 それは、保健室の主である氷緒子さんのようだった。
 なんて。
 ……やっぱり男性の方がロマンチストだと思う。
「氷緒子さん」
「どうした、凍矢」
「週末は暇ですか?」
「忙しいよ」
「……そうですか」
「ああ、いつも私は忙しいんだ。考えなければいけないこと、やらなければいけないことが多くある」
「……そうですよね」
「そんなに哀しそうな顔をするなよ、凍矢。凍矢は私を『忙しくしてくれる』のだろう?」
「え?」
「私は忙しい。暇など無い。凍矢のことを考えなければならないし、凍矢のためにやらなければいけないことが多くある。凍矢がいる限り、私は忙しいのだろうな」
「それは――」
「私は週末はとても忙しい。そうしてくれるのだろう?」
 笑顔の氷緒子さん。
「氷緒子さんっ!」
 抱きついた。
「と、凍矢、いきなりなんだ?」
「俺も忙しいんですよ、実は」
「そうか」
 背中に回される氷緒子さんの腕。
「今もとても忙しいんです」
「そうだな」
「忙しいですけど、それ以上に幸せなんです」
「そうか」
「氷緒子さんも同じように感じてくれれば、それは最高だと思います」
「……ああ、そうだな。それは本当にそうだ」
 俺は氷緒子さんが好きだ。
 氷緒子さんも俺が好きだ。多分。
 奇跡のような。ロマンのような。
 それは、恋とか愛とか言われる感情のこと。
「週末か。忙しくなりそうだな」
「ええ、忙しいですよ。余計なことなんて考えられないくらいに」
「ふふ。今日はやけに積極的だな、凍矢」
「素直になってしまっただけです。普段は頑張って抑えている感情が、抑えられないだけです。これが俺ですよ。嫌ですか?」
「嫌か、か? そうだな。……いや、いいさ。こういう凍矢も、私は好きだよ」
 優しい眼。
 この人は、俺にとって、どれだけ大事な女性(ひと)なのか。
 考えるまでも無い。
 自分よりも、世界を敵に回しても。
 ほぼ合っている? 冗談じゃない。何も間違いなど無い。
 この時間。この瞬間。この一時(ひととき)。
 掛け替えの無い。掛け値なしに。

 幸せな、放課後の保健室。


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ここからはスタッフの一言コメントです。

・零's comment:
ようやく書けました書きました。零です。
まったく参考にはなりませんが、ACwikiでは四ヶ月間新しいシナリオを投稿しないとコメントアウトされるルールです。
それにのっとればセーフ、のはず。
いやまあ、まったく参考にはなりませんね。
次も早めに書かないと。

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シナリオ 選択肢

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 以下は私、零が現在級友のmochimimi(プログラマ)と、とろぼぶ(BGM担当)と作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
 感想・意見・質問、果ては批判もお待ちしています。お読み頂けた上で何か少しでも言いたいことがあれば遠慮なくお申し出下さい。
 なお、「http://space.geocities.jp/vanishing_00/IFs.html」がシナリオのみをまとめたHPになりますので、過去分をお読みいただけるようでしたらこちらへどうぞ。

 それでは以下シナリオです。

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 開放感。
 それは何にもまして快感であると言える。
 例えば我慢し続けたゲームをようやくプレイ出来た時のように。
 例えば長かった試験期間がようやく終わった時のように。
 苦しみの対比物として楽しみがあるのだとすれば、開放という言葉自体がすなわち喜びであることは疑いが無い。
 それは時に革命を起こしてしまうほどの誘惑を持つことすらあるというのだから、開放という事実が持っている魅力は語るまでもあるまい。
 開放は、前提として拘束が無ければ生まれない。
 縛られていなければ解き放たれないからだ。
 何かを我慢した後の方が、喜びが倍増するということは誰にでも伝わることだろう。
 好きな料理を後に残したり。
 空腹が何よりの調味料だったり。
 ……いや、何で食べ物ネタばっかりなんだ。
「んあー。終わったあー」
 とチャイムが鳴ると同時に机に伏せた。
 どうしてこう、授業終了までのラスト五分間は長く感じられるのだろう。国語担当の崎守(さきもり)先生の講義が、最後には子守唄のように聞こえたくらいだ。
 世界は人間が認識しているからそこに存在するのだ、という理論があったような気がする。
 曰く“世界は観測された時から世界になるのだ”とか。
 その見地からすれば、時間という一見して固定でありそうな概念さえも、実は可変の存在なのかもしれない。
 つまり。
 つまり……。
「もういいや、別に」
 何が哀しくて授業終了時からこんな小難しいことを考えなければいけないんだ。今まで散々頭を働かせていたというのに。
 いいんだよ、そんなのは。
 普段はともかく今この瞬間だけは世界で一番怠惰(たいだ)に過ごせる時間なんだから。
 ああ、だから開放を謳(うた)った革命は頓挫することが多いのか。
 革命の後では気高い革新の心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていく……だっけ? これはちょっと違うか。あのシリーズの言い回しは独特だよなあ……。
「…………」
 ともかく今日最後の授業は終わった。
 突っ伏している間にホームルームも始まっているようだ。
 担任の辻原(つじはら)先生がいくつか注意事項を連絡している。
 それを軽く聞きとめながら、頭では週末の過ごし方を考えていた。
 金曜日のホームルーム。
 それはつまり週休二日制の規則から言えば平日最後のホームルームということになる。
「終わったぁ……」
 これで一週間が終わり。
 明日からは休みだ。
 だがまあ、火曜日から始まっているのだから実質四日しか学校に来ていないというのに、このやる気の無さは一体どうしたことだろう。
 これだから夏休みボケなんて言葉が生まれるんだ……。

 さて、と。
 どうするかな。

選択肢:
・この喜びを氷緒子さんに伝える。
・開放的なみやびちゃんを見たい。
・玲沙ちゃんに会いたいなぁ……。
・とりあえず奈々に話しかけよう。


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ここからはスタッフの一言コメントです。

・零's comment:
ネタがないのでとりあえずお茶を濁すシナリオ投稿。
さすがにそろそろシナリオをアップしておかないと大変なことになりそうだったので……。
後一週間は修羅場だな……。
ちなみにmochimimiは「開放的なみやび」が気になるそうです。

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シナリオ 昼食と限界

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 以下は私、零が現在級友のmochimimi(プログラマ)と、とろぼぶ(BGM担当)と作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
 感想・意見・質問、果ては批判もお待ちしています。お読み頂けた上で何か少しでも言いたいことがあれば遠慮なくお申し出下さい。
 なお、「http://space.geocities.jp/vanishing_00/IFs.html」がシナリオのみをまとめたHPになりますので、過去分をお読みいただけるようでしたらこちらへどうぞ。

 それでは以下シナリオです。

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 人は、どういう時に自分の限界を知るのだろう。
 人は、どういう時に自分の天井が見えてしまうのだろう。

「…………」
 例えば人間は、年を重ねる毎に成長する。
 そりゃあ“進歩の無いヤツ”とか“衰えたな”とかそんなフレーズはよく耳にするだろうけれど、それでも人は日々成長する。
 それは全ての体験がその人の糧(かて)になるからだ。
 経験は知識に勝る。
 百聞は一見にしかず。
 人生のほとんどが経験で占(し)められる以上、日々の成長は人間の基本であると言ってもいい。
 しかし。
 それにも限界がある。
 育ち過ぎた樹木が自重に耐え切れないように。
 太陽に向かったイカロスが墜落したように。
 全てには限界がある。
 無限という言葉は、現実には存在しない。
 現在の知識体系おいて観測しきれない現象を便宜上そのように定義しているに過ぎない。
 例えば、無限の代名詞とも言える円周率の計算。
 これだって今は無限と定義されているが、あるいはそれこそ無限とも言える時間を計算に費やしたなら、答えが出るかもしれない。あるいは円周率の計算方法自体が変わるかもしれない。
 第一、無限を二倍にしても無限であるという数学の常識自体が妖しい。
 数式にすれば『無限×二=無限』となり、これは明らかにおかしい。
 だからこの数学の法則は“一定以上の数に対して四則演算は意味を成さない”という協定に過ぎない。
 全ての数の零乗が一になると定めたものと同じだ。
 数学だって学問である以上はそれなりの決まり事の上に成立していて、無限という言葉もその一つに過ぎない。
 無限は無い。
 全ては有限でしかない。
 ならば人間に過ぎない俺達の成長にも、当然限界は存在する。
 寿命という限界を持つ生命は、その全てに限界が定められているようなものだ。
 だから古来の魔術師や王は永遠の、無限の命を欲した。
 自分の知識欲のために、その他の欲望のために。
 間違っているとは言えない。それは誰にも。
 だが無限に到達し得た人間は、一人もいない。全ては有限だった。
 よく言われるように、大人になるにつれて、身長が伸びるにつれて、子供の頃より天井がよく見えるようになる。
 細かなヒビやシミ。木造の天井ならば木目など。子供の頃よりも見えてくる。
 決して比喩ではなく、まして物理的な冗句でもなく、成長とは限界に近付くものでしかないからだ。
 子供の頃は夢を見られる。
 将来はこうなりたい。
 将来はきっとこうなっている。
 来(きた)るべき未来に夢を見ることが出来る。
 知識が足りないという以上に、それは限界が見えないからだ。
 子供は限界の代わりに夢を見る。
 すなわち夢は成長の糧となるからだ。
 いくら経験は成長と同義だと言ったところで、どうしようもない経験のみでは、その成長は無いに等しいものとなるだろう。
 重要なのは夢を見ること。
 夢を、実現出来る可能性を見つめること。
 それは何よりも成長の糧となる。
 言うなれば前に進む勇気。
 成長への原動力。
 誰しもそれを持っている。
 夢を見ない人がいないように、希望(ゆめ)を抱かない人などいない。
 いくら絶望がその身を包もうとも、希望は全ての人に平等だからだ。
 けれど。
 いつからだろう。
 夢が限界に変わるのは。
 いつからだろう。
 現実という世界の中で夢が限界に、希望が絶望に変わるのは。
 それは経験というステータスなどには価値が無いのだと、知識が主張するように。
 それは知識のみがこの世界で必要とされるものだと、主張するように。
 現実の中で“限界という名の知識”が人を侵食する。
 夢を見続けることが出来なくなる。
 私達はどうして。
 どうして誰に教わるでもなく限界という知識を得てしまうのだろうか。
 それは一種のセーフティなのかもしれない。
 蝋(ろう)の翼で太陽を目指さないように。
 不相応な夢を抱いたままに、堕した人生を歩まぬように。
 そうやって人間という種族の遺伝子に刻み込まれた洗脳なのかもしれない。
 どういう過程を描こうとも、やがて皆が限界を知る。
 自分の身の程を思い知る。
 救いであるとも、死刑宣告でもあるとも言える、この瞬間は、果たしていつなのだろうか。
 それは――

「数学の時間だったりするよな」
「何か言ったぁ?」
「いいや、何でもないよ紫桜。独り言さ」
 何かすごく壮大なテーマについて考えていたような気がするが、よく思い出せなかった。
 まあ、つらつらと意味も無く考えていればそんなものだろう。
 意志と方向を持たない思考なんて、暇つぶしにしかならないのが常だ。
 それに、思い出せない内容なんて、つまりその程度の価値しかないのだと思う。本当に重要なものは忘れたりしない。
 絶対に。
 仮に忘れたとしても、必ずいつか思い出す。
 大事なものは、大事なだけに心に残るものだ。
「しかしまぁ、散々だったなぁ凍矢」
「ん? 何が?」
「さっきの数学の時間のことさぁ。須々木先生、今日は妙に凍矢にご執心だったじゃないかぁ」
「ああー。まあ、そうだったな。あ、そうそう。忘れないうちにお礼を言っておかないと。みやびちゃん、ありがとう」
「え、私ですか?」
 黒い(多分漆塗り)小さめの弁当箱を突(つつ)いていたみやびちゃんは、驚いたように顔を上げた。
 弁当の内容は、見る分には和食系。いかにもみやびちゃんらしい内容だった。
「さっきの数学の時間のこと。助け舟を出してくれたでしょ」
 須々木先生に指名された問題を中々解けなかった俺に、そっと答えを示してくれたのがみやびちゃんだった。
 先生に気付かれないように、という条件を満たしながらのアドバイスは相応にリスキーで、相当に難しかっただろう。
 それでも助けてくれたみやびちゃんには感謝と謝辞を示さなければならないと思った。
「そのことですか。……ですけど、在郷さんでしたら私のつまらない横槍など無くても大丈夫だったと思います。ですから私の方こそ差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした」
「んー。何か俺のことを誤解してそうな感じだな。俺はそんなに優秀じゃないよ」
「そのようなことをおっしゃらないで下さい。在郷さんの成績は皆さんも知っているのですから。――勿論、成績だけで優劣をつけられるとは思っていませんけれど、それでも必要以上に己を卑下することは無いと思いますよ?」
「ああ、いや……。そういう風に言われると何か恥ずかしいな。でもあの時間、結構ぼぅっとしてたから、助かったのは確かなんだし、お礼は言わせてくれ」
「ですが……」
「気にしなくていいよ。俺の問題だし。――それに、自分を卑下するとかそういう話でいうなら、誰かを助けた人はお礼を言われるだけの“必要”があるわけで――」
「あぁ、もう。いいじゃないかぁ、そんなこたぁ」
 と紫桜の乱入。
「凍矢、お礼を言え」
「え、ああ。……みやびちゃん、ありがとう」
「月形さんも、それを素直に受け取る」
「あ、は、はい。どういたしまして、ですか?」
「よし。これで一件落着。これでいいだろ?」
「ん。ああ、そうだな」
 まさか紫桜にまとめられるとは思わなかったが。
 それでも場は落ち着いた。
 紫桜の意外な一面を見た瞬間だった。
「人を助けたり、それに対してお礼を言うのに理由なんていらないだろう? 一々理屈を述べる“必要”なんて無いさぁ」
「ま、確かにそうだな」
「うーん、凍矢ちゃんが紫桜君に諭されるなんて、珍しいこともあるもんだねー。これは明日は大雪かなー」
 と卵焼きを飲み込んだ奈々が更に乱入。次第に場が混乱の方向へ向かう。
 折角紫桜が落とし所を見つけたというのに……。
「奈々ちゃん酷いぃ!」
「奈々さん、それはちょっと意地悪な言い方ですよ」
「えー、そうかなー? そういう風に感じたことをそういう風に表現することに理由はいらないよー」
「理由はいらなくても、思いやりは必要なんだよ」
「ぐふぁー。むー。凍矢ちゃん! いきなり手刀は無いんじゃないかなー! 貴重な知識が抜けたらどうするのさー」
「心配するな。今のは人としての常識を文字通り叩き込んだんだ」
「え、そうだったんだー……って、そんなわけないじゃない!」
「ふふ、何を隠そう、実はこの俺は手刀にのせた知識を他人に叩き込むという能力があるのだ!」
「「な、なんだってー!?」」と、ノリの良さを見せる奈々&紫桜は芸人気質。
「そ、そうだったのですかっ」と、人の良さを見せるみやびちゃんはもう少し人を疑った方がいい。
「じゃ、じゃあさ! テスト前に凍矢ちゃんに叩いてもらえば成績が良くなるかなーっ!?」
「何ぃ。それはズルイぞ奈々ちゃん! 凍矢の知識は、親友である俺のものだぁ!」
「ふははは。良かろう。二人とも叩きまくってやるわ!」
「フッ。フフフ。凍矢に俺が叩けるかなぁ?」
「……ふふふー。凍矢ちゃんに私が叩けるかなー?」
 突然に紫桜が不敵な笑みを浮かべた。奈々もそれに便乗する形で盛り上げる。
 二人の姿は格闘漫画におけるライバル、RPGにおけるラスボスのそれと同じ。
 己に絶対の自信を持つものの空気(オーラ)。
 まあ、俺が高笑いしたからそれに乗っかってみたかった、ってのが本当のところだろうが、それは言わないお約束。
「何を言っている……俺に出来ないはずが無い」
「本当にそうかなぁ」
「凍矢ちゃんには無理なんじゃないかなー」
 お前にはさっき一発入れただろっ、という突っ込みをするタイミングではないことは言うまでも無い。更に言うまでも無く、いつの間にか話が置き換わっていることに対しても突っ込んではいけない。
 その場の空気を読むスキルは現代人には必須だ。
 勢いだけの会話において、急展開・超展開は日常茶飯事なのだ。
「俺に、俺になら出来る!」
「ならばやってみるがいい!」
「やってみるがいいー」
 どうでもいいけど、完全に手下役になってるぞ、奈々。
「良くぞ言った! ならば受けるがいい! 在郷流奥義! 『有情破顔拳』!」
 右で紫桜に、左で奈々に攻撃する!
 この技を受けた人間は死の際に天国を感じ、一切の苦痛を感じることなく死ぬのだ!
「ば、馬鹿なぁ……っ! それは手刀の技では無いはずっ……がくっ……」
「うー……。よくぞこれほどまでの力を身に付けたー。お前こそが真の継承者なのかもー。……ばたっ」
「な、何ということだ……。最後の最後で立場が逆転してやがるっ。まさかここまでのやり取りはカモフラージュで、奈々が本当の敵だったのか! やべえ、完全に騙されていたぜ……」
 アレ?
 でも結局同じタイミングで倒されたら意味無くね?
 とまあそんな疑問は置いといて――
「みやび!」
 寸劇を続ける。
「えっ?」
「みやび! これでお前を悩ませる悪は滅びた。これからは二人で幸せに暮らそう」
「ええ!? そ、それは……」
「どうしたんだ、みやび。もう悪はいないというのに」
「その……私には他に好きな人が……」
「な、なんだってー」
 なんということだ。
 必死の思いで敵を打ち倒したというのに、その女性には既に思い人がいたなんて……。
 …………。
 まあ、知ってたけど。

 とまあ、楽しい昼食時。
 ちなみに思い人、和帰は我関せずといった風に、一人静かに弁当を食べていましたとさ。めでたしめでたし。


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ここからはスタッフの一言コメントです。

・零's comment:
 カラオケのダメージからまだ回復しきってない、零です。
 アルトネリコがついに発売。
 序盤をやった程度ですが、さすがというか、なんというか、病気ですね(褒め言葉)。
 シナリオについては……特に言う事がありません。
 気付いたら北斗の拳ネタを使っていた。


・mochimimi's comment:
ついこの間、めでたくない誕生日を迎えることになりました。
実家へ帰省していた時、自分の部屋を整理していると小学校の卒業文集が出てきました。懐かしい思いでクラスの自己紹介のページをめくっていくと、10年後の自分に向けて一言という項目がありました。
同級生のみんなは「サッカー選手になったか」とか、「誰々のお嫁さんになったか」など自分の夢について書いてあって、さて自分はなんて書いたんだったかと思い、自分のページをめくってみると

「まだゲームやってる?」

……えー、やっていますともゲーム。それもその当時の軽く3倍は。
この頃の自分は何を想ってこう記したのか、まったくもって分かりません。せめて「ゲームクリエイターになってるか」ぐらい書いてあれば、「真似事みたいのはやっているぜ」と答えられたものを。
10年たってもまったく進歩がみられない、むしろダメな大人になりつつある、mochimimiでした。

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シナリオ 登校路

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 以下は私、零が現在級友のmochimimi(プログラマ)と、とろぼぶ(BGM担当)と作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
 これ以前のシナリオは過去ログに残っているはずなので、お読み下さる方は右サイドバー内の『categories』の中から『シナリオ』をクリックしてご覧下さい。
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 それでは以下シナリオです。

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「…………」
 朝食を終え、弁当を作り、準備万端整えた後、登校である。
 雲一つ無い――とは言い切れないけれど、間違い無く晴れ。
 さりとて照りつけるような日差しではなく、暖かな雰囲気。
 時刻は七時四十分過ぎ。始業ベルまではかなり余裕がある。
 実に清々しい一日の始まりだった。
 ただ一つ不吉な影があるとすれば――
「ああ、おはよう。心良」
 ――おはようー。
 と目の前を黒猫が横切ったくらいか。
 いや、正確には俺の前で止まっているので“横切った”わけではないのか?
 えーと、でも確か海外では黒猫が横切るのは吉兆だったはずだから、ポジティブに考えればこれはいい傾向と言えなくも無い。
 何で日本と海外で逆の風説が生まれているのだろうか。
 むしろ海外の方が悪いイメージが強いと思うのだが。ほら、魔女の使い魔って大体黒猫だし。某宅急便の魔女だって黒猫を連れていた。
 あれ? それとも使い魔が黒猫なのは日本の風習なのだろうか。海外ではもっと別の何か?
 まあ、どちらにせよそれほど信心深いとは言えない俺である。大して気になったわけではない。
 いいじゃん黒猫。可愛いから。
 もしもこれから不幸な出来事があったとしても、心良が可愛いからそれでチャラだよ。
 世の中の全てはプラスマイナスが零になるように出来ている。チャンスの後にピンチあり。ピンチの後にチャンスあり。
 ただそれのボーダーラインが人によって違うだけだ。
 だがしかし。
 よくよく考えてみればこの格言は真言だよな。
 チャンスは慢心を生むからピンチを招き易く、ピンチは奮起するからチャンスを引き寄せ易い。
 ことわざも格言も何千年という時間が作り上げた言葉だ。それだけ意味があるのだろう。先人は尊敬すべしってね。
「ともかく。今日も黒いな、心良」
 ――ん。……尻尾は白いよ?
 と先だけが白くなっている尻尾を軽く振ってみせる。
 “黒い”と言われるのが嫌だったのだろうか。
 確かに腹黒い的な意味合いに聞こえなくも無い。
 しかしどこまでも完全に完璧に人語を理解している猫である。
 賢いな、全く。
「うん。今日も白いな、尻尾」
 ふさふさと毛並みの良い尻尾を撫でる。
 普通野良の猫ってのはもう少し汚れていそうなイメージだが、心良は余程の綺麗好きなのだろうか。それともこれは俺の勝手なイメージで、実際の野良猫は案外綺麗なのだろうか。
 ――っ。
 ピクンと反応を示す心良。
 尻尾にもいくらかの緊張が走るのが分かる。
 ……可愛い。
「良き哉(かな)良き哉。苦しゅう無い」
 むぅ。口調が変わってしまった。
 毛皮ってヤツはなあ……人を魅了する魔力があるんだよ。そりゃあ口調だって変わるさ。
 強弱をつけて撫で続ける。
 ――にゃぁ……くすぐったいよぉ……。
「いや、これが中々手触りがよろしくてな……」
 ――ふぁぁ……。んん……。
「良いではないか。良いではないか」
 ――だ、駄目なのぉ……。
 と、心良が一際強く反応を示すポイントを発見。
 丁度白くなっている部分と黒い部分の境目だ。尻尾の先から四分の一付近。
「ふふふ。ここか? ここがいいのか?」
 最早完全に気分はお代官。
 これもこれで日本の伝統。
 いや伝統芸能と言っても過言ではあるまい。
 先人は敬うべし、だ。
「このふさふさ感は国宝級だな。是非とも商品化すべきだ。『無限ふさふさ』とかいう名前で。やめられない止まらない河童(かっぱ)のような海老(えび)」
 ――っぁ。うぅ……ら、らめぇぇぇ……。

「凍矢先輩は本当に病気です」

「な、ナニヤツ!?」
 と未だに時代がかった口調を引きずる俺。
「もーっと抱ーきしめらーれたーいなー♪ 全地球上のMascot♪ 玲沙ちゃんでございまーすっ☆ ですっ☆」
「…………」
「…………」
「おはようございます」
「おはようございますです」
 どこかで聞いたことのあるフレーズだったが、何事も無かったかのように流した。
 いつから人類を代表するマスコットに成り上がったんだ、と突っ込みたかったが堪えた。
 きっとそれが一番玲沙ちゃんのためになると信じて。
 真実を受け止めるだけが優しさじゃないと信じてる。
 誰だって、そう、誰だって。
 時として過ちを犯してしまうものだ!
 人間だもの!
「朝から猫相手に盛(さか)ってますね、凍矢先輩。獣姦(じゅうかん)でもするつもりですか? 玲沙的にはそれは二次元だけにして欲しいっていうか……現実(Real)でやられると、例えそれが凍矢先輩だとしても幻滅せずにはいられないと言いますか、って感じです」
「じゅ、獣姦……?」
「異種混合と言いますか――いえいえ、いいのですよ。Lionと虎の間にも子供が出来ると言いますし。江戸時代の春画にもタコが登場すると言いますし。時として人は過ちを犯してしまうですよ」
「逆に同情された!?」
 な、何ということだろう。
 俺は玲沙ちゃんを哀れんでいたつもりだったのに、気付けば立場は逆転していた――っ!
 この衝撃の展開には匠(たくみ)もビックリだ! 劇的ビフォーアフター!
 …………。
「おはよう、玲沙ちゃん」
「……?」
「おはよう」
「……おはようございますです?」
 挨拶は偉大だ。
 人としての礼節を正してくれる。
 付属効果として話をリセットする機能もあったりなかったりする。
 きっと挨拶という行為を考え付いた人は、普段から誤解を受け易い人だったのだろう。
 玲沙ちゃんの暴走も初期段階だったから、今回はこれで何とか収まった。こういうのは初期の対応が一番重要だからな。
 暴走は自分では止まらないから暴走と言う。
 放っておけば手がつけられなくなるのは目に見えていた。
「あれ? そう言えば猫さんがいなくなってますね」と玲沙ちゃん。
「え? ああ、本当だ。いつの間に」
 逃げ足の速い心良だった。
 まあ、逃げ足というのは悪い表現で使われがちだが、自然界においては生き残るための最重要ファクターだったりするしな。
 少なくても五年は野良生活を送っている心良である。
 察知能力と咄嗟(とっさ)の行動力には優れたものがあるのだろう。
 敏捷性は大事だ。俺は一番最初に成長させる。……ゲームの話だけど。
 いやだって、素早さが高ければそれだけ行動出来るわけで。兵は神速を尊ぶというか。まあ、結局は攻撃力の高いフィニッシャーがいないと泥沼だったりジリ貧だったりするんだが――
 ――って話が逸れた。
 んむ。
 人間の年齢に換算すれば結構お姉さん――というかお婆(以下略)――なんだな、心良。ほとんどの言葉が通じるから、何となく人間を相手にしてるつもりでいた。
 そろそろ飼い主が見つかってくれるといいのだが……。老体には辛い(以下略)。
 この現状を見る限り、今でも俺以外の人間には懐いていないのだろうか?
 少し心配だった。

「そうですか、私の誤解でしたか。それは申し訳ありませんです」
「分かってくれればいいよ」
 普通の人間は最初からこんな誤解はしないだろうけれど。
 仕切りなおし。
 心良にも逃げられたし、玲沙ちゃんと並んで登校する運びとなった。
 ということで、このままあらぬ誤解を受け続けるのは人間性にダメージを受けそうだったので、きちんと説明をしたところ。
 風評は重要だ。
 悪い噂は流れる前に防ぐのが最上。
 人の噂は七十五日といったところで、七十五日もあれば大抵はその人物に対する評価が決定してしまうものだ。
「私はてっきり……その……こんな朝から、しかも公道で、猫さんと乳繰り合っているのかと。凍矢先輩は流石に勇者だな、と思ってしまったですよ」
「……玲沙ちゃんは俺のことをどう思っているんだ?」と思わず聞いてしまった。
「凍矢先輩ですか? 尊敬してますよ?」
「……そか」
 “何を”尊敬しているのか。それは怖くて聞けなかった。
 恐怖。
 それは人間が持つ最大のセンサーなのだ。
 君子危うきに近寄らず。
 触らぬ神に祟りなし。
「私にとって凍矢先輩は勇者なのです。あ、勘違いしないで下さいですよ? 別に異性として好きってわけじゃないですから」
「分かってるよ」
 玲沙ちゃんが好きなのは(何を間違ったのか)和帰だから。
 いやホント、何でアイツはこんなに好かれ易いのかね。
 生粋の主人公体質?
 ちょっと羨ましかった。
「そうですか。分かってくれているのなら、それは安心です。――ところで勇者の“勇”の字って片仮名の“マ”に“男”と書くですよね?」
「そうだね」
「つまり、そういうことなのですよ」
「――?」
「エロいですよね」
「……エロい?」
 何のことだ?
「“マ”で“男”ですよ!?」
「そう、だね?」
「察しが悪過ぎです! 間男(まおとこ)ですよ!」
「……っ。ああ! なるほど!」
 信じる者が儲かる。人の夢は儚い。
 そんな感じ――いや漢字のことか。
「なるほど、間男ねぇ」
「うぅ……何だか普通に感心されたです……。玲沙としては軽い突っ込みが欲しかっただけなのに、です……。自分のボケを説明することほど空しいことは無いですよ」
「ごめんごめん」
「いいです。凍矢先輩はこういう人だって知ってましたから」
「そ、そうか……」
 それは非常にありがたくない評価のような気がするな。
 しかしまあ、間男ね。
 勿論、片仮名と漢字の組み合わせだし、間男が“勇ある者”というわけでは無いのだろうけれど、これは中々暗示的だな。
 ある意味では確実に勇気のある人だし。間男。
 俺には間男になるだけの行動力は無いなあ。
「それではこういう流れということもありますし、少し話を変えますです。――凍矢先輩の好きな漢字は何ですか?」
「好きな漢字?」
「はい。座右の銘的なものでもいいですし、もっと他のものでもいいですよ?」
「うーん」
 急に言われてもな。
 何だろう。
 ……。……。
 特に思いつかないので「ちなみに玲沙ちゃんは?」と場繋ぎとしての質問。
「私ですか? 私は……“嬲(なぶ)る”……ですね」
「……あー」
 玲沙ちゃんってこういう娘だよなぁ……。
「な、何ですかその“玲沙ちゃんってこういう娘だよなぁ……”みたいな視線は?!」
「いや……ああ。いやいや」
 正解! それ正解!
 ――と言うわけにはまさかいくまい。
 円滑な人間関係のためには正直なだけでは駄目だ。
 嘘が一番優しい、と誰かが言っていた。
 ……まあ、それほど深刻な話でも無いか。
「凍矢先輩の反応は冷たいですが“なぶる”は男が二人だったり、女が二人だったりして変化に富む非常に素晴らしい漢字なのですよ!」
「女二人?」
 男二人に女一人。それが“嬲る”の覚え方のはずだが。
「“嫐”と書いても“なぶる”と読むですよ。両手に花ですよ」
「へぇー。それは知らなかった。玲沙ちゃんは賢いね」
 エロいことに関してだけは。
「え、えへへ……。ってそんな優しそうに頭を撫でても騙されませんよ!? 心の中では“エロいことに関してだけは”って注釈を入れてるですね?!」
「鋭いっ」
「馬鹿にしてー、です! むしろDeath!」
 玲沙ちゃんが懐に手を入れるっ。
 これは銃撃フラグっ。
「あ、俺の好きな漢字を思いついた」
「むー。一応聞いてあげましょう」
 胸元の銃を掴んだ姿勢のままで、玲沙ちゃんが言う。
 つまりこれがラストチャンス。
 すなわち『何か言い残すことは無いか?』という状況。
「“嬉(うれ)しい”」
「その心は?」
「“女を喜ばせる”と書くから」
「…………」
「……どう?」
「この……っ」
「この?」
「このPlay Boy気取りめぇ! いつから凍矢先輩はそんなCharacterになったですかぁ! 私のベレッタの錆(さび)になれぇ、です!」
「ちょ、ま……。ならないって! 人を傷つけて錆になるのは刃物だけだから!」
「Gripで殴れば文句無いですかー!?」
「ぎゃぁぁぁ!」

 という平和な朝の一コマ。
 ちなみにベレッタはイタリア語。玲沙ちゃんスキルの適応外だった。


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ここからはスタッフの一言コメントです。

・零's comment:
今回は心良と玲沙。
何かどちらも若干エロティックになっているのは何故なのか、一度シナリオを書いている時の私と会談してみたいです。
“手が勝手に動く”“キャラが勝手に動く”というタイプの人間である私は、毎回『どうして今回こんなテキストになったんだろう?』と思っていたりします。


・mochimimi's comment:
ねこ……、モフりたいなぁ。
こう、疲れているときにマフマフモフモフしたい時ってありません?
若干嫌そうな表情をしながらもちゃんとモフらせてくれた近所のねこは実家を出てから会っていないので少々寂しいです。
まぁ、ねこの視点からすると日課の日向ぼっこを邪魔されなくなってせいせいしていると思いますが。
元気にしているかな。
凍矢が心良をモフッているのを読んでそんな事をふと思い出したmochimimiでした。


・とろぼぶ's comment:
こんにちは、作編曲、サウンド担当のとろぼぶです(^^)

先週火曜から週末にかけて、出張で浜松に行ってきました〜。
天気が良く、新幹線から見た富士山が綺麗でした!

さて、肝心のBGMの方でありますが、
いろいろと用事を済ませた後
インスピレーションの波がやってまいりまして(笑)、
何とか数曲曲の形になりました。
まだ試作品の段階ですが、ゲームに組み込んでみるのが楽しみです。
それでは!

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シナリオ 朝食

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 以下は私、零が現在級友のmochimimi(プログラマ)と、とろぼぶ(BGM担当)と作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
 これ以前のシナリオは過去ログに残っているはずなので、お読み下さる方は右サイドバー内の『categories』の中から『シナリオ』をクリックしてご覧下さい。
 感想・意見・質問、果ては批判もお待ちしています。お読み頂けた上で何か少しでも言いたいことがあれば遠慮なくお申し出下さい。

 それでは以下シナリオです。

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「何、弁当?」
 寝起きから一悶着あったものの、その日の食卓は平穏そのものだった。
 テレビから聞こえてくるニュースも、心なし普段より明るいように聞こえる。
 箸で鮭の身をほぐしながら、氷緒子さんに答えた。
「ええ、まあ」
 といっても。こちらから言い出したものの。
 やはりこういう“お願い”はやり辛い。
 元々他人に頼るのは苦手だ。
 自分の弱さとか能力の無さを人の所為にしているようで。
 出来るならばあまりやりたくは無い。
 “お願い”を“甘え”と捕らえてしまうのもまた、若さと呼ばれる部類なのかもしれない。人前では、特に氷緒子さんの前では格好をつけていたい。
「弁当か。そうか。何かあったのか? 普段は凍矢が自分で作っているだろう?」
「ええ、まあ」と繰り返す。「実は……その……」
「ははぁ。分かった。よく分かった。――分かってる。凍矢の気持ちはぜーんぶねっ☆」
「…………。えーと?」
「伝わらなかったか。流せ」と少し恥ずかしそうに氷緒子さんは言った。
「はあ……」
 何かのネタだったのだろうか?
「ともかく凍矢の言わんとしていることは分かった。大方友人……そうだな、深鈴和帰に彼女がいるとは思えないから、小鳥遊紫桜の方か。彼に彼女がいて、手作り弁当が羨ましかったのだろう?」
「――ッ」
 すご過ぎる図星。
 この人、実は千里眼を体得しているんじゃないのだろうか。そうであれば今朝の超能力じみた把握能力にも説明がつく。
「ええ、まあ。……全くもって、全てが全てその通りです」
「はっは。やはりそうか。私の心眼もまだまだ捨てたものじゃないな」
「…………」
 しかし、こう……。
 改めて指摘されると物凄く格好悪いな……。
 理由が酷過ぎる。
 これでは『クラスメイトの誰々が玩具を持っているから自分も買ってくれ』とねだる子供のようではないか。
「そんな居心地の悪い顔をするなよ、凍矢。思わず抱きしめたくなるじゃないか。それとも誘っているのか?」
「……まさか。ちょっとバツが悪いだけですよ」
「どうして?」
「俺の自分勝手な我侭(わがまま)に氷緒子さんを巻き込んでしまったことが、です」
 言わなければよかった、と本当に後悔した。
 つまらない嫉妬心からの発言なのが余計に重たい。
 いくら氷緒子さん相手といえども、氷緒子さんだからこそ、こんなつまらないことに巻き込みたくは無かった……。
 数分前の自分を捻り殺してやりたい。
「……馬鹿だな、凍矢は」
「……はい」
「我侭上等じゃないか。私にくらい我侭を言えないようでは将来が心配だよ。――いいんだよ、我侭で。人間ってのは本来我侭なものだ。甘えてみろ。頼ってみろ。存外それも悪くないものだぞ? 大丈夫だ。これでもそれなりに人生を経験している。凍矢一人くらいは支えられるさ」
「……しかし」
「格好がつかない、か?」
「ええ……」
「私は凍矢に格好をつけてもらいたいとは思わない。ああ、勿論これは凍矢が格好悪いという意味でも、格好良くなるなという意味でも、凍矢は格好悪いくらいが可愛がり甲斐があって面白いという意味でもない。ただ、無理して格好をつけていて欲しくないというだけだ。分かるか?」
「……すみません」
 よく分からなかった。
 どうして格好をつけてはいけないのか。
 やはり人間自然体が一番だと、元々の能力以上のことは出来ないのだと、そういう意味だろうか?
「謝るなよ。いいか? 格好をつけるってのは自分を良く見せたいってことだろう? それが悪いとは言わないよ。私だって出来ることなら人前では格好をつけていたい。でもな。それは人前の話だ。私達は何だ? ――恋人……だろう?」
「……氷緒子さん……」
「凍矢が私の前で一生格好をつけたままでいられるならば、それでもいいのかもしれないが、それは無理だろう? 私も無理だ。やりたくもないしな。だから時々は弱くていいんだ。格好悪くていいんだよ。近しい人の前でくらい、人は格好悪くなるべきだ」
「…………」
 まだよく分かっていないのかもしれない。
 近しい人の前だからこそ格好をつけていたいという意見もあるだろう。
 けれど。
 けれどそんなことは瑣末に過ぎないのだと確信出来るほどに。
 そうやって言い切る氷緒子さんが格好良かった。
「理解しろとは言わん。分かれとも、分かってくれとも言わない。私が正しいとは誰も証明してくれないしな。ただ、私はそう思うんだ。だから凍矢がどんなに格好悪くても、甘えん坊でも、それでいいと思う。それで誰かに頼りきりになるような男じゃないと、私は信じているからな」
「……氷緒子さん」
「どうした?」
「……それ、すごく恥ずかしいです」
 氷緒子さんがあまりにも格好良過ぎたから、思わずからかっていた。
 こうやっていなければ赤面してしまうだろうことが分かったから。
 格好良くなりたいなあ……。
 いつか氷緒子さんに褒められるくらいに。
「恥ずかしい、って。あのなぁ、人が折角――いや。ああ。そう……だな。ちょっと恥ずかしかったな」
「恥ずかしいけど、すげぇ格好いいです」
「フン。生意気を言う」
「うん、決めました。やっぱり弁当は自分で作ります」
「ん? やっぱり甘えるのは嫌か?」
「んん、と。そうじゃないですけど。もう少し自分で頑張ってみようかと思いまして」
 せめて卒業までは。
 高校を卒業するまでの残り一年半くらいは頑張ってみようかと、そう思った。
「……うん。そうか」と氷緒子さんはとても優しい眼をして言った。
 思い込みかも知れないけれど、褒められたような気分になる。
「すみません、何かかえって混乱させてしまいました」
「いいよ。許す」
「ありがとうございます」
「んー。しかし勿体無いことをしたかな」
「何がです?」
「いやぁ、珍しく凍矢が甘えてきたというのに偉そうなことを言ってはぐらかしてしまったからな。こういう所で私への依存度を上げておけば今後のためになったのかも知れないと思うと、なぁ?」
「…………」
 それについては何も言えない。ノーコメントということで。
「そう言えばさっき、和帰には彼女がいるとは思えない、って言ってましたけど。そうですかね? 俺には紫桜の方がよっぽど彼女がいるようには思えないんですが」
「ああ、そのことか」味噌汁を一口含み、満足するように頷いてから氷緒子さんは続けた。「深鈴和帰は、アレだろう。確か妹がブラコンなのだろう?」
「……えーと。まあ。そう言えなくも無いです」
 一羽ちゃんのアレを“ブラコン”の括(くく)りに入れられるのかと問われると非常に微妙なところなのだが。
 まあ、少なくても“ブラコンじゃない”とは言えまい。
「そんな妹がいる状態で恋人を作れるほど器用な少年には見えなかったのでね。――となれば、残りは小鳥遊少年しかいない。他の友人の可能性もあるにはあるが、凍矢が思わず私に甘えるほどの衝撃ともなれば、日頃から名前が挙がるこの二人くらいだろう? 他の可能性を排除したのならば、どんなに信じられなくてもそれが真実である、ってね」
「安楽椅子探偵もビックリの推理力ですね」
「半分以上はあてずっぽうだけどね。他の友人である可能性自体も排除出来ているとは言いがたいし、完全に凍矢の思い付きである可能性もあった。けれど、これくらいはお遊びの範疇だ。外れても少し恥ずかしい思いをするくらいだろう」
「何というか、それでもきっちり当ててくる辺りが流石に氷緒子さんって感じですよ」
 本当に。
 “流石”という言葉を今日だけで何回使ったことだろう。
「ん。……褒めても何も出ないぞ?」
 照れたように卵焼きを口に運びながら、氷緒子さんはそう言った。
 この人の傍にいられること。
 それが一番の幸せなのだと。
 今はそれで十分だと。
 確信した。


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ここからはスタッフの一言コメントです。

・零's comment:
今回は趣向を変えて(?)大人のお姉さんバージョンの氷緒子さんです。
甘やかしすぎじゃね?


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シナリオ 氷緒子さんとゲーム

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 以下は私、零が現在級友のmochimimi(プログラマ)と、とろぼぶ(BGM担当)と作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
 これ以前のシナリオは過去ログに残っているはずなので、お読み下さる方は右サイドバー内の『categories』の中から『シナリオ』をクリックしてご覧下さい。
 感想・意見・質問、果ては批判もお待ちしています。お読み頂けた上で何か少しでも言いたいことがあれば遠慮なくお申し出下さい。

 それでは以下シナリオです。

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「私に不可能は無い。私が望む範囲において」
「…………」
 というのは、家の中に漂う味噌汁の香りから既に氷緒子さんが来ていることを知った俺が、少しの悪戯心を出して『氷緒子さんに気付かれないようにどこまで接近出来るかゲーム(ちなみに気付かれないで接触出来るとは思っていないので、あくまでどこまで近づけるかを目指すゲームである)』を始めたところ、台所で料理をしている様子の氷緒子さんが呟いた一言。
 以上。説明終了。
 ううむ。やはり氷緒子さんはこのタイプだったか……。と妙に納得してしまう。自分の趣味には全力を尽くすくせに、それ以外は興味すら示さないことも珍しくない氷緒子さんらしいというか何というか……。
 ホントこの人、本気出したらすごい人なんだけどな。ムラッ気が強いというか。緩急が自在過ぎるというか。
 まあ、そこが可愛いんだけど!
 ……。……。
 いや。まあ。
「完璧だな。これならば到達し得るかもしれん」と味見をしていた氷緒子さんが呟く。
(どこに――!?)と心の中だけで突っ込みを入れる。
 面白そうだからこのまま少し観察していることにしよう。
 一応恋人同士だし、ここは俺の家だし、行動には問題無い……はず。覗き趣味の変態というレッテルを貼られることも無い……はず。
 どうでもいいけど、恋人と変人って似てるよね?!
「六時十四分、か。凍矢が起きてくるまでにはもう少し時間があるな。もう一品くらい作っておこうか。ふむ。どうしたものかな……」
 ちなみに俺がいる地点(廊下の角)から見える分には、味噌汁、白米、ホウレン草のおひたし(渋い)、焼き魚(鮭)が見て取れる。これに沢庵や卵、海苔を追加すれば朝食としては十分だろう。
「まぁ、あまり迷っていても仕方ないか。凍矢も若い男だ。朝食が多過ぎて悪いことはあるまい。ふふ、エネルギーが過剰になった凍矢が暴走してしまったらどうしようか」
(……いやいや本当にどうするんですかね。ていうか何故に笑ってるんですか。氷緒子さんの頭の中で俺は一体どんな暴走をしていると言うのですか)
 表情だけ見れば実に楽しそうに、氷緒子さんは卵を割り始める。
 おお、流石氷緒子さん。両手で片手割り。同時に二つの卵を割っている。本当にこの人は何をやっても一流だなあ。
 どうやら追加の一品は卵料理らしい。
 となれば時間的にもあまり凝ったものは作れないだろうから、目玉焼きか卵焼きか……スクランブルエッグ、は氷緒子さんの嗜好的にありえないだろう。
 氷緒子さんの卵料理は密かに俺の楽しみだったりするから、これは素直に嬉しい。
「よく考えれば卵料理は凍矢の好物だったか。これを作らずして朝食の準備を済ませたとは言えまい。そんなことでは凍矢に『画竜点睛を欠くとはこのことですね。そんな氷緒子にはお仕置きをしなくては……くすくす』と言われてしまう。ああ、駄目だ凍矢。若さの激情に任せてしまってはッ。犯罪を犯してからでは遅いのだぞッ。くっ、こうなれば仕方あるまい。凍矢のリビドーは全て私が受け止めてやる!」
(――男前ッ!)
 と。
 ……ふう。危ない。声を出す一歩手前だった。
 相変わらず表情だけ見ればすごーく楽しそうに料理をしている氷緒子さんに、今すぐ突っ込みを入れたくなる衝動を抑える。
 しかし、これはまた。
 氷緒子さんの頭の中の俺を一度見てみたくなる。
 それはもう、さぞかし情熱的(婉曲表現)な若者なんだろうな。変態だけど(本音)。
 ……。……。
 もしかして氷緒子さんが求める俺というのは“ああいうの”なんだろうか。俺はあんな風にならないといけないんだろうか。
 うう……それだけは嫌だ……。
「で、いつまでそこに隠れているんだ?」
「――ッ!?」
「もしかして凍矢はお姉さんを遠くから視姦(しかん)するだけで満足出来るような変質的性癖を持っていたりするのか? 大丈夫だ。もしそうだったとしても私は凍矢を軽蔑したりはしないぞ。何故なら私は凍矢を愛しているからだ。愛して愛して、そして恋しているからだ。だから私も恋人として凍矢の要求に応えるのはやぶさかではないが、しかしどちらかと言えばもっと一般的な恋人関係が望ましいのだが――んん、いや分かっている。私のような女が何をそんな恋する美少女のようなことを言っているのだ、と突っ込みたいのだろう? ふふ、突っ込むだなんて凍矢はえっちぃな。嬉しいよ私は――」
「…………」
 突っ込み所が多過ぎる!
「とはいえ、女性はいつまでも恋する少女なのだ、と言うではないか。“永遠の十七歳”なんてのはその最(さい)たるものだろう? ん、あぁ、これは違ったか? ちょっと今は上手い例が浮かばないが、つまりそういうことなのだ。女性の方が現実的で、男性の方がロマンチストであるという統計データはよく提示されるが、しかし実際統計なんてものはあまり意味が無い。統計の取り方、そのデータ。そこから考察出来る“事実”なんてものはほとんどが信憑に欠けるものばかりだ。だから統計という行為そのものが胡散臭い。大数の法則のこともあるしな。えーと、何だっけ? ああ、女性はいつまでも恋する少女だって話か。それはつまり――」
「おっはようございます氷緒子さんっ。今日は実にいい天気ですね!」
 何とか話が途切れる所を狙って中断を狙う俺。
「つまり……女性というのは……。……。ああ、おはよう凍矢」
「……おはようございます」
 ふぅ。何とか正常運行の氷緒子さんに戻ってくれたか。
「これはすまなかったな。朝からちょっと飛ばし過ぎた」
「いいえ、良いんですよ。――でも、いつから気付いてました?」
 氷緒子さんに気付かれないようにどこまで接近出来るかゲーム。途中までは順調だったはずだ。氷緒子さんが俺に気付いているような素振りは見て取れなかった。
 が、氷緒子さんはことも無げにこう言った。
「いつから? それはどの辺りのことだ? 凍矢が起きたのは六時五分二十三秒だろう? それで着替えを済ませてそこから覗きを始めたのが六時十二分十七秒だ」
「…………」
 絶句する俺。
「……?」
 心底不思議そうな顔をする氷緒子さん。
「えーと、マジっすか?」
 信じられん。いや正確には信じ難い。
 そりゃあ今まで氷緒子さんの超人っぷりは嫌になるほど見てきたけれど、こればかりは。
 だって氷緒子さんは台所で料理を作っていたわけだろう?
 俺が視界に入っているわけでは無いだろう?
 料理をしていたのだから回りの雑音とかもあっただろう?
 それでどうして俺が起きた時間まで分かるんだ。
「いくら何でも……」
「絶対に間違い無い。私が凍矢に関することで間違えるものか。それともグリニッジ標準時で表現しては不味かったか?」
「えーと、いや。それはいいんですけど……。だって氷緒子さん途中まで全然気付いていない風だったじゃないですか」
 結局そこになる。
 俺の起床時間をどれほど正確に言い当てようと、俺に気付いていなかった氷緒子さんには俺がいつからここにいたのか、ということは分かっていないはず。
 だから――
「んーそうだなー。こういう風に言うといい訳チックに聞こえるかもしれないが、凍矢がそこにいること自体は最初から気付いていたよ? ただ、眼を醒ました凍矢が忍び足で近寄ってくるから、恋する乙女らしく『だーれだ?』的なラブいことやってくれるのかと期待してワクワクテカテカしていたのに、凍矢ってばよく分からないことに廊下の角で止まるからさ。しかも熱っぽい視線で私のことを見つめているではないか。となれば、これはもう年頃の少年らしく覗きなのだろうと判断して、それに合わせてみた。私としては凍矢が満足するまで覗きの邪魔をしたくは無かったのだが、そろそろ料理も仕上がりそうだったから名残を惜しんで声をかけた、というわけだ」
「ああー……。ああー……。はいはい。……そうですか」
 氷緒子さん怖ええええ。
 ハイスペックお姉さんマジ怖ええええ。
 どうやら俺は氷緒子さんを見くびっていたようだ。この人マジで人間をやめてるって。石仮面とか被ってるって。
 私は人間をやめるぞ、凍矢ああああ!! 的な。
「哀しそうな顔をしているな、凍矢。……すまない」
「え、いや氷緒子さんが謝ることなんて一つも無いですよ?」
「みなまで言うな。十代の少年が自分の性的嗜好を理解される苦しみはよく分かる。やはり私は凍矢が満足するまで視姦に耐えねばならなかったのだな。……すまない、凍矢。この程度の要求すら満たせないようでは恋人失格だな……」
 何その非の打ち所の無い自己犠牲。
 ああっ、愛が重い!
「えーと……いや。そう、ご飯! 折角氷緒子さんが作ってくれたんだ、冷めないうちに食べましょう!」
「気遣ってくれるか。優しいな、凍矢は」
 そして食卓へ。
 氷緒子さんに気付かれないようにどこまで接近出来るかゲームはもう封印指定だな。二度とやるまい……。


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ここからはスタッフの一言コメントです。

・零's comment:
ということで、メンバーが一人増えました。
mochimimiと話していても、BGMで悩むことが多かったので、この援軍は心強い限りです。
しかし、そうやってまた話し合いを重ねると『ここの場面はどういうイメージなわけ?』と聞かれることになり、そういう時は大抵『……さぁ……どうだろう?』と返すことになります。
つくづく何も考えずに書いているんだなぁ……と落ち込み。
シナリオを書く時は、別にその場面をイメージして書いているとは限らない、ということで。零でした。


・mochimimi's comment:
シナリオを読んでいく度に氷緒子さんのスペックの高さにこの人はホントに人類なのかどうか疑ってしまいます。氷緒子さんがいれば人生に生きていくのに必要な事全てやってくれそうで、一家に一人、氷緒子さんがいればダメ人間を大量生産しそうですね。どこかにいないかなぁ、そんな人。

朝ご飯ができている状況に羨ましさを覚える、けど朝ごはんはだいたい食べないmochimimiでした。


・とろぼぶ's comment:
はじめまして。とろぼぶと申します。
ゲームの音楽を担当する事になりました。
DTM経験は多少ありますが、本格的な作曲は初めてです。
自分としてもどんなものが出来るのか手探りでのスタートですが、生暖かい眼で見守っていただければありがたいです(笑)
どうぞ、よろしくおねがいします。

というか、ゲームって結構音楽沢山必要ですよね……
作る側になって始めてわかる大変さ……。

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シナリオ 四日目の朝

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 以下は私、零が現在級友のmochimimiと作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
 これ以前のシナリオは過去ログに残っているはずなので、お読み下さる方は右サイドバー内の『categories』の中から『シナリオ』をクリックしてご覧下さい。
 感想・意見・質問、果ては批判もお待ちしています。お読み頂けた上で何か少しでも言いたいことがあれば遠慮なくお申し出下さい。

 それでは以下シナリオです。

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 ……。……。
 ……。
 眼を醒ますという行為は、例えばスイッチを入れる行為と似ているように思う。
 なんて格好つけた言い回しを使ってみたものの、こんな比喩は定型句に似ていて使い古されているものだから、大して格好良くはならなかった。
 まあ、この俺が格好つけたところで所詮はこの程度であるといういい見本にはなったと思う。自分の限界と現実を知ることは、多分その人が思っているよりも遥かに重要なことだ。
 それに、本当に格好いいヤツは格好つけなくても格好いいものだから、格好をつけなければならない時点で、その人物は格好良くないと公言しているようなものだ。つまりは俺が格好良くないということなのだ。自分で言うのも哀しいものだが……。
 だからといって、だとしても。
 格好良くなりたい、美しくなりたいと思うのは人の性(さが)。
 誰も責められない。
 いいじゃんよ! 年頃の男子高校生が格好つけて何が悪いんだよ! 男なんてのはいくつになっても格好つけたがる生き物なんだよ!
 ん。
 多少話が逸れた。閑話休題。
 とはいえ覚醒をスイッチに例えるのは間違っていないとも思う。
 王道や定型句なんてものは“大多数に共感される”が故に王道であり定型句であるからだ。
 大多数というのは民主主義における正しさ、突き詰めてしまえば正義とでも表現されるべき力だ。力を持つものが正統とされるのはどこの世界でも同じこと。歴史は勝者が作る、みたいな?
 つまり王道は正義。正しさ。間違いの無いもの。間違っていても正しいと訂正出来るもの。
 スイッチ。
 それはすなわち何かを“切り替える”もの。
 睡眠と覚醒を隔てるもの。
 例えばここでパソコンを取り上げてみよう。スイッチという単語が機械的なものを連想させるから、パソコンを例として取り上げるのはさしておかしいとは言えまい。むしろ正しいくらいだ。
 さてパソコンである(パソコンは正式にはパーソナル・コンピュータの略だから、よくよく考えればここでは単純にコンピュータを例にすればいいのかもしれない。ああいや、眼を醒ますというスイッチを論じているのだから“個人的(パーソナル)”であった方がいいのか)。
 周知の事実であるように、パソコンはスイッチを入れると起動する。すなわちこれが“覚醒”“眼を醒ます”にあたるわけだ。
 スイッチが入る前のパソコンは静止状態にある――ように見える。
 眠っている――ように見える。
 この状態からは何も起こらない――ように見える。
 見える、が。それは正しくない。
 正確にはパソコンはスイッチがオフの状態でも稼動しているのである。あくまで人間(そと)から見て動いていないように見えるというだけで、実際はハードディスクドライブ内のデータを保持するためだったり何だったりで稼動しているのだ。
 これは人間に例えれば“夢を見ている”状態に値するのだろうか。
 そして当然だがパソコンは電源が無いと起動しない。これは、そう、人間が“死んだら動かない”のと同じだろうか。
 そうなってくるとパソコン内にインストールされている様々なソフトやツールはその人間の性格や能力に値するのだろうか。ならばOS(オペレーティング・システム)はさながら人種?
「朝っぱらから奥深い命題に出会ってしまった……」
 『近代の人類とコンピュータの関係 - 私達が失ってしまったものとは』というタイトルで学会に発表することにしよう。
「…………」
 馬鹿馬鹿しい。
 寝惚けていると碌(ろく)なことを考えないといういい事例だ。
 しかも最初のテーマ(眼を醒ます=スイッチを入れる)から逸れてるし。
 起きた瞬間から難しいことを考えると結論には至らないという教訓を得た。得たが、前提としてまともに頭が回らない状況なので、この教訓が今後生かされることは無いだろう。哀しいことに。
 寝起きの良さ、とはすなわちパソコンの起動時間にでも相当するんだろうか、と考える。
 んん。
 しかし実際それなりに面白いテーマのように思えた。パソコンを人間に例えると、か。
 まあそれも散々やりつくされたテーマだろうし、インターネットを漁れば腐るほど同じようなことを書いたサイトが見つかることだろう(それこそ何年か前にOSの擬人化なんてのが流行したこともあったくらいだし……)。
 俺があらためて考えるまでもない。
 世の中のほとんどは既にやりつくされていて、本当に新しいものってのは中々見つからないものだ。
 ――ってのは凡人の発想なのかね。
 例えば最先端を突き走る天才学者は『世界はまだまだ神秘に満ちている』なんてことを言うのだろうか。それとも『この世界に解けない謎なんて何一つ無い』と言うのだろうか。
 これはこれで興味のある疑問だった。
 だったが、俺には生憎天才学者の知り合いがいないので、この疑問が解消されることは無いのだった……。
 どんなに頑張っても天才学者では無い俺に答えが出せるとも思えないし、氷緒子さんはかなりの天才に分類されるだろうが、学者ではない。この疑問に対する答えは本当の意味で生涯を研究に捧げた学者(しかも現在の更なる先を見通せるだけの才能を持った人間に限定される)にしか出せないものだろう。
 その答えも人によって違うかもしれない。
 凡俗の最果てたる俺は天才を一括りにしたがるが、一口に天才と言っても色んな種類がいるだろうことくらいは推察出来る。
 あるいは“頂点は常に一つ”の格言通り、突き抜けた天才達ってのは同じ発想・考えに統一されるのだろうか。
「なんて。戯言か。……ん。割と面白いテーマだったけど、こんなところだろう」
 この先はいくら考えても泥沼だ。
 雑多な言葉をいくら重ねてもこの先の答えには辿り着けないだろうことはやらなくても分かる。それくらいの賢しさは持ち合わせているつもりだ。
 だからこれ以上は時間の無駄。
 脳の運動は必要だが、どうせ運動させるなら生産性のある運動をしたい。
 それに、寝起きの運動としてはこれでも十分過ぎるくらいだ。
 仮に。そう仮にだが氷緒子さんが学者だったとしたら、内心はどうあれ『解けない謎なんて一つも無い。私が求める範囲において』なんてことを言いそうだ――という推測。これをもって今朝の締めくくりとするとしよう。
「んじゃまあ。起きるとしますかね」

 九月四日。金曜日。快晴。
 時刻は午前六時七分。早起きをしたもので、目覚ましが仕事を始めるにはまだ二十三分の猶予がある。相変わらず時間に正確やヤツだよ、彼は。
 今日を乗り切れば週末だった。


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ここからはスタッフの一言コメントです。

・零's comment:
マウスとキーボードは“しがらみ”ですかね。
ということで、今回からスタッフコメントが付きます。
やはりシナリオだけアップしてそれだけ……ってのは寂しいので。
今回はmochimimiだけですが、次回以降はもう一人増えるかも!?

・mochimimi's comment:
今からシナリオに対して一言よろしく、ってことで呼ばれてきましたmochimimiです。
最初ということで軽く自己紹介などをやってみたいと思います。
さらっと流してくれるとありがたいです。
ゲームの方では主にプログラムなどを担当しているみたいです。
ある日、零が「(ゲーム作製を)やらないか」と迫られ、ガクブルしたのも今となってはいい思い出です。
今は零がシナリオを載せていますが近いうちにゲームの方も体験版という形で出せたらいいなぁと思っています。
今回はこれで失礼します、ネットラジオがないとたぶん生きていけないmochimimiでした。

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シナリオ 三日目ラスト

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 以下は私、零が現在級友のmochimimiと作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
 これ以前のシナリオは過去ログに残っているはずなので、お読み下さる方は右サイドバー内の『categories』の中から『シナリオ』をクリックしてご覧下さい。
 感想・意見・質問、果ては批判もお待ちしています。お読み頂けた上で何か少しでも言いたいことがあれば遠慮なくお申し出下さい。

 それでは以下シナリオです。

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「恋人ってのはいいものだよな」
『……はぃ?』
「いや、そう認識する出来事があったわけさ」
 夜。時刻は十時を回ったところ。自室のパソコン前。
 例のごとく狂騒とのチャットである。
 一日一度はパソコンに触れていないと生きていけないのが昨今の学生なわけで。そういう時に知り合いがサインインしていれば話しかけたくなるのが人情ってなわけですよ。
『誰か友達に彼女でもいたのか?』と、突然とも言える俺の発言に対して狂騒の反応は的確だった。
 第一声が意味不明だと対応に困るものだと言うのに。狂騒め、中々に出来るな。
「うん? 鋭いな狂騒。その通りだ。こうも簡単に真相を見抜くとは、探偵でもこうはいかないだろう」
『偶然だよ。たまたま勘が冴えただけさ』と少し間を置いて、狂騒はそう言った。
「ふうん。まあ、そうなのかな」
 元々狂騒はあまりタイピングが速い方ではないが、今回は特に時間がかかっていた。
 大方俺の褒め方が反応し辛かったか、他に何か作業をしていたのだろう。常に一定の速度で返答が来る方が怖い。
 人間と話しているのだから、こういう変化はむしろ望ましい。チャットという文字だけでの会話ならば尚更だ。
 返答までにかかる時間。微妙な言葉の選び方。それからの推測。そういうところがチャットの醍醐味(だいごみ)と言ってもいい。
「恋人ってのはいいよ」
『そうかな』
「そうだって」
『そうか』
「狂騒だって恋人がいるんだろ? 尽くしてくれる」
 と、そう言ってここで気付く。
 そうか、狂騒の恋人も尽くしてくれるタイプの人なのか。
 氷緒子さんもアレで案外そういうタイプだし(氷緒子さんの場合は俺の方から断っていかないとドンドン過保護になるタイプだから、少し違うかもしれないが)、世の中の女性ってのはそういう人が多いんだろうか。
 ん……いや、恋人に何かをしてあげたいと思うのは至極当然か。そう考えればこれは意外な共通点と呼ぶには少し弱い。
 誰だって好きな人のためになりたいと考えるものだ。
『恋人ね。――ああ、いるな』
 とまたしても少し間を置いての返答。
 今回の場合は自分の恋人を話題にあげられて返答に困った、といったところだろう。
 それが分かるならそんな話題を振るなよって話なのだが、それはそれ。人の恋愛は最高のネタだ。
 他人(ひと)の不幸は蜜の味という。ならば他人(ひと)の幸せも密の味をしていてもいいだろう。
「その恋人ってのはいいものだろう?」
『ん。まぁ』
「狂騒、まさかとは思うが照れてるのか?」
『馬鹿野郎。そんなわけないさ』
「そっか。恋人はいい。これは真実なんだろうな」
『まるで自分にも恋人がいるかのような言い方だな。――確か響には姉はいても恋人はいないと聞いていたが、最近出来たのか? ――もしかしてさっき言っていた“友達”ってのが実は響のことだったり』
「…………」
 むう。
 狂騒め、反撃してきたな。
 確かに“俺の友達の話なんだけどさ”って定型句は疑われても仕方ないか。論拠としては正しい。
「いやいや、友達の話は本当に友達の話さ。ただの妄想だよ。俺も彼女欲しいなーってこと」
『そうか? 実は姉ってのが彼女だったりするんじゃないか?』
「……ッ」
 うわあ……。今日の狂騒は妙に冴えてるな。
 ことごとく真相を突き当ててくれる。
「まさか。俺は独り身だよ」
 あまり思考に時間をかけると怪しまれるので、軽く返信。
 別に狂騒には本当のことを教えても構わないのだが、折角だから氷緒子さんは姉という設定のままでいて貰うことにしよう。
『そうか。勘繰ったりしてすまなかったな』
「別にいいさ」
 ふう。と一息つく。何とか誤魔化せたか。
 あっさり納得してくれて助かった。
 これが対面しての会話だったら間違い無くバレてたな。
 嘘をつくのは結構苦手だ。
 だからこそ楽しいのだが。
「ところで狂騒」
『何だ?』
「狂騒の彼女の話をしよう」
『……。今日は随分と食い込んでくるな。――いや、食い下がってくる、か』
「嫌か?」
『……んー。別にいいけどさ。あまり面白くも無いぜ?』
「どうかな。狂騒ってクールっぽいイメージがあるから、彼女に対してどんな風にしてるのかとか興味があるわけよ」
『別に。普通さ』
「それはそれで妖しいな。狂騒が普通の彼氏をやってるってのは想像つかない」
『失礼な』
「すまんすまん。――で、どうなのよ。自慢の彼女さんは最近何かしてくれた?」
 エンターキーを押した後に違和感。
 ……あー。失敗した。
 彼女が何かしてくれた。
 このフレーズ。ちょっと言い方が不味かったかも知れない。
 これでは彼女を蔑(ないがし)ろにし過ぎだ。恋人ってのはそういう利得関係じゃないだろう。
 で、訂正しようとして、そこで狂騒からの返信。
『何か、か。弁当を作ってくれるな』
「…………。――何と!」
『どうかしたのか?』
「いやいや、さっき言っていた友達の彼女さんも弁当を作ってくれるって話だったからさ」
『そうか』
「やっぱ彼女って言えば手作り弁当なのかね」
『そうなんじゃないか?』
「む。何か余裕のある言い方だな。――これが実際に彼女がいる男の余裕か」
『そんなんじゃないさ』
「いいんだけどね、別に。――で、美味しかった?」
『何が?』
「弁当に決まってるだろ!」
『ああ、そうか。――そうだな、美味しいよ。アイツは俺の好みを知り尽くしてるしな』
「……畜生。仲の良さをアピールしやがって……」
『そんなつもりじゃ』
「分かってるって。狂騒はそんなに嫌味なヤツじゃない。――言ってみれば嫉妬だよ」
 今度氷緒子さんに弁当を作ってもらう! 絶対だ!
 日頃から自分で作った弁当を持って行っている俺だ。怪しまれることもあるまい。
 こんなことなら最初から氷緒子さんが弁当を作るって言ってくれた時にお願いしておくべきだった。あの時は万が一にも学校側に氷緒子さんと付き合っているという事実がバレるのを防ごうと必死だったからなあ。
 よくよく考えれば弁当一つから作り手がバレるなんてありえない。一体どんな料理の達人だよって話だ。
『ん。そろそろいい時間じゃないか?』と狂騒からの提案。
 時計を見れば、短針は十一に近づいていた。
 まあ、まだ早いと言えば早いが、狂騒がこう切り出してきたのだ、多分この後に何か用事でもあるのだろう。
 ここで引き止めるのも悪いし、マナーにも反する。
 顔が見えない分だけ、こういうところは察しなければならない。
 面倒と言えば面倒なのだが、それは顔が見えていても同じことだろう。相手を気遣うことは重要だ。
「そっか、そうだな。じゃあ今日はこれで解散しよう」
『ああ』
「今日は色々と興味深い話を聞けて楽しかったよ。――じゃあ、またな」
『また』

「シャットダウンしてっと。……ふうううう」
 息を吐きながら、両手を上に引き上げる感じで背伸び。
 固まっていた筋肉がほぐされていく感触が、たまらなく気持ちいい。
「色々あったなぁ……」
 夢オチあり、驚愕の事実あり。ゲームもやった。
 氷緒子さんの折檻(せっかん)……は思い出さないことにしておこう。いやまあ、言うほど辛いものではないのだけど。一言で言うなら、究極の甘やかし。内容は語らないけど。アレはなぁ……。
 十一時か。
 少し早いけど、今日はもう寝るとしますかね。
 何だかんだでそれなりに疲労しているのか、ベッドに横になるとすぐに眠くなってきた。
 夕方に仮眠もしたっていうのに、この身体は随分と怠け者だな。自分のことながら情けない。
 まあ、身体が疲れている時は休むのが一番。眠い時は(それが可能ならば)素直に寝ることだ。
「ふぁ」と欠伸(あくび)を噛み殺す。
 これは本格的に眠い……。
 それでは……おやすみなさい……。
 よい夢を。

シナリオ 帰宅から夕食まで

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 以下は私、零が現在級友のmochimimiと作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
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 それでは以下シナリオです。

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「――ふぅ」
 自室のベッドに倒れ込み、一息。
 時刻は午後五時四十五分。
 カーテンの隙間から僅かにのぞく空は、あかね色に染まっていた。
 六時前にこの空模様。季節は順調に秋へと移り変わっているようだった。冬になれば、この時間なら真っ暗だろう。
「疲れた……」
 と無意識に口から音が漏れる。
 軍人ごっこは楽しいのだが、体力の消耗量が増加してしまうのが欠点だ。普段使い慣れていない単語で会話しなければならないのもその理由の一つだろう。
 まあいいか。楽しければ。
 今はそれでいい。
 疲れないけれど楽しくないことと、疲れるけど楽しいことならば俺は楽しい方を選ぶ。
 多分誰だってそうだろう。楽しいことをした後の疲労感だって、ある意味ではご褒美のようなものだ。
 充足感。満足感。
 満ち足りた気持ちになれる。
「とはいえ疲れは疲れ、っと」
 ぐっ、と力を込めて全身を伸ばす。固まった筋肉がほぐれていく感覚が堪らない。
 それから脱力。なるべく全身の力を抜く。ベッドに全てをゆだねる感じ。
 ……。
 …………。
 よし、こんなところかな。
 これで後は少し仮眠を取れば疲れも取れるだろう。
 と考えた瞬間に強烈な睡魔が襲ってくる。
 夕食を作らないといけないから、六時半には起きるとしよう。
 それくらいならば……氷緒子さんが……帰ってくる前に準備を完了出来……るだろう……。……。


 凍矢。
 ん? 誰?
 誰だっていいよ。
 どういうこと?
 これは凍矢の夢だから。凍矢の夢の中だから、わたしが誰だとしても、それ自体に意味なんて無いから。深鈴和帰かも知れないし、小鳥遊紫桜かも知れないし、松林奈々かも知れないし、それとも邦取氷緒子かもしれない。
 少なくても氷緒子さんはそんなこと言わないよ。
 ならわたしは邦取氷緒子以外の誰かだよ。
 アバウトなんだな。
 夢だから。確定されない世界だからね。
 俺の夢、か。最近の夢はそんなことを自己申告してくれるんだな。
 ふふ、凍矢は本当に凍矢だね。
 馬鹿にされた気がする。
 そんなことないよ。
 そうか?
 そんなことないよ。
 そうか。
 そうだよ。
 ふぅん。それで、これはどんな夢?
 凍矢はどんな夢がいい?
 俺? 俺か。
 何か願うことは無い?
 願い。でも例えそれが叶ったとしても、夢の中では意味が無いんじゃないか?
 そうだね。
 あっさりと肯定するなよ、少しは希望を持たせてくれ。
 凍矢はそう思いたいの?
 ああ、思いたい。夢の中くらい、自分の自由にしたい。
 本当?
 ああ。
 本当?
 嘘だけど。本当は、でも本当は意味なんて無い。夢だから。起きてから一時間も経てば忘れるような夢だから。願いが叶っても、筆舌に尽くしがたい悪夢だったとしても、それらは同等に意味が無いから。
 リアリストだね。
 そうでもないよ。少し冷めてるだけ。
 嘘だよ。凍矢は誰より暖かいよ。
 暖かい? それはどうかな。
 信じられない?
 正直に言えば。
 そう? でもわたしが保証するよ。凍矢は暖かい人。
 夢の中で誰とも知れない人に保証されてもな。
 酷いなぁ。……ねぇ、夢って本当に意味が無いのかな。
 何だよ今更。最初に言ったのは君だろう。
 そうだけど。でもわたしが絶対に正しいとは言い切れないじゃない? だったらもしかしたら夢にも意味があるのかも知れないよ。
 医学的には“記憶の整理”らしいけどね。
 茶化さないでよ。そういうのじゃなくて。
 ああ、なるほど。君は夢の中に“夢(げんそう)”を求めているんだね。生憎俺はリアリストだから。
 本当はリアリストになろうとしてるだけの癖に。
 そんなことないさ。
 そう?
 ああ。
 嘘だね。
 嘘だけどね。
 わたしね、凍矢の夢の一部だから。それって凍矢の一部ってことだよね。
 そうかな。まあ、そうなるのかな。
 わたしは、ここにいるんだね。
 そうじゃないと俺が独り言を呟き続ける痛い人になるな。それは勘弁して欲しい。
 凍矢には、わたしは必要かな?
 君が誰かも分からないのに、それを答えるのは無理だよ。
 それなら感覚だけでいいよ。今はどんな感じ?
 ……そうだな。少なくてもいなくなって欲しいとは思わない。自分のことを見透かしたように、ってああ、君は俺の一部だから見透かしてるのは当たり前なんだけど、それでも知ったような態度を取る君を見ていても苛立(いらだ)ったりはしてないよ。
 卑怯な言い方。
 正直なのさ。
 そっか。でも、まだわたしはここにいられるみたいだね。
 許可してないよ。
 うん。
 許可して欲しい?
 いて欲しい?
 質問を質問で返さないでくれ。
 でも、分かってるでしょ?
 まあ、自分のことだからね。
 それじゃあもう少しだけ、きっともう少しだけだから。それまで仲良くしようね。
 いいよ。
 うん。じゃあ、ばいばい。またね。
 また。覚えていれば。
 酷いなー。
 夢は忘れるものだよ。
 んー。それでもいいや。

 それから段々と意識が薄くなり(夢の中だというのにこの表現は如何(いかが)なものか)、会話はそれで終わった。
 夢の中の不思議なお話。
 記憶には残らないお話。
 これにて夢の時間は終了。
 それでは起きるとしよう。
 現実を始めるために。


「…………」
「……。……」
「……ん……」
「…………」
「…………んん……んー。起きた」
「起きた?」
「起きました」
 と普通に返事をして、そこで違和感に気付く。
 相手は誰だろう。
「誰?」
 普段ならば絶対にしないことだが、寝惚けた頭は疑問を自然に口にしていた。失礼この上ない。いや、失礼極まりない。
「誰だっていいじゃないか」
「…………」
 頭を撫でられる。
 やわらかい。いい香りがする。
 なんだろう。とても安らかな気持ちになれる。
 何だかまた眠くなりそうな……。
「ひよこさん……」
「……氷緒子だ」
「氷緒子さん……。――氷緒子さん!?」
 飛び起きた。
 氷緒子さんはベッドの脇に座ってこちらを向いている。
「何でここに!?」
「何で? そうだな、学校が終わっていつも通りに帰宅した。その後、服を着替えて凍矢の家に来た。インターホンを鳴らしても反応が無かったので合鍵を使って室内に入った。もしかしたら悪漢(あっかん)に襲われて倒れているのではないかと思って室内を探索したらベッドで幸せそうに眠りこける凍矢を発見。この時点で七時といったところだ。それから、食事の準備を整え、そろそろ凍矢を起こしに行こうかと思ったのだが、寝顔を見ているうちに何だか起こすのが忍びなくなってな。かといって自分一人で夕食を取るのも寂しいから凍矢が起きるのを横で眺めていた、というわけだ」
「……親切なご説明ありがとうございます」
 失態。失敗。そして失格。
 時計を見れば現在時刻は八時に十分ほど満たない数値。簡単に言えば七時五十分。
 わざわざ寝起きの頭で考えるまでも無く寝すぎだった。
 人間の睡眠周期は九十分だと聞いたことがある。そうなれば当初の予定だった六時半というのは一番起きにくい時間、と無理に理屈付けをしてみようとするが、しかしそれもきちんと七時十五分に起きていればという話だ。
 あー理屈って所詮理屈なんだよな。大数の法則? いやこれは違うか。ともあれ理屈は民主主義だ。大勢の味方だ。普遍の味方で、例外の敵なのだ。
 だから失敗した時は素直に――
「ごめんなさい」
 謝る。それが一番正しいと思う。
 自らのミスを理屈で擁護(ようご)しようなんてのはエゴ以外の何者でもない。
 それに対して氷緒子さんは「ごめんなさい? 何を謝るというのだ。身体が休憩を欲しているのならそれは仕方の無い話ではないか」と許してくれた。
 それでも言いたいことはあるにはあったが、許してくれた以上、謝った側から加えて言うのは礼を失する。
 謝って許された。それでいいのだ。
 それ以上は蛇足だし、許した側への侮辱になる。
「さて、では凍矢も起きたことだし、夕食にしよう」

 夕食は、寝起きの俺が食べ易いだろうということで軽めのものが用意されていた。
 今日の氷緒子さんは優しいな。いや、普段から優しいんだけど。
 それにしても、何か妙な夢を見ていたような気がするのだが……起きた時のショックでほとんど内容を忘れてしまっていた。
 何か大事なことだったような。それでいて意味なんてないような。自然で、あまりにも自然だったから重大さに気付かないというか。
 何だったのだろう。
 俺は何を忘れているというのだろう。
「まあ、いいか」
「ん? 味付けが気に入らなかったか? いつもより薄味にはしているが。ふむ、やはり若者である凍矢としては寝起きと言えども高カロリーの食事が望ましかったか。若いなぁ、凍矢。お姉さんは照れてしまうぞ」
「いえ、別にそれはいいんですけど」
 独り言、しかも口に出したかどうか微妙なほどの呟きを聞かれたことに関しては今更突っ込まないけど(何しろ氷緒子さんだし)、しかし最後の『照れる』発言はよく分からなかった。きっと氷緒子さんには氷緒子さんなりの基準があるのだろう。
「若いパッションを持て余しているのではないのか。それでは何か他に問題でも? 敵か? それなら名前と規模を教えてくれれば明日の朝までに解決して見せるが」
「いやいや、違いますって。――ていうか何でそんなに過激なんですか」
「過保護なんだよ。凍矢が可愛いからな」
「一見男前に聞こえるけど、よく考えると駄目過ぎる台詞ですね」
「いいんだよ、そんなのは。愛情なんて最終的には“相手のために自分はこれだけのことをしてあげることが出来る”って依存でしか無いんだ。私には凍矢を護ってあげることしか出来ないよ」
 色々と反論しなければならない箇所があったが、まあ別にいいか。
 それよりも――
「俺としては女性である氷緒子さんに護られるってのは、何でしょう、男の意地? そんなものが反対しますけどね」
「フェミニストだな、凍矢は」
「そうですかね」
「男尊女卑だな、凍矢は」
「フェミニストとは正反対ですよ」
「いいんだよ。フェミニストってのは女性の権利向上のために、ひいては男女平等を実現するために行動するヤツらだろう? その思想の根底にあるのは“女は男より下”という理解だ。だからフェミニストってのは結局“女は男より下だ。それは少し可哀想だからせめて男と同じ程度にはしてやろう”って偽善者なんだよ」
「ええと……フェミニストに恨みでもあるんですか?」
 ていうかもしかして地雷を踏んだか?
「別に何も。あんなヤツらに思うことなんて何一つないよ。強いて言うなら“ご苦労様でした。無駄な人生を送ってますね”だ」
 眼が、眼が怖いッ。
 これ、室内が暗かったら絶対光ってるよ!
「ん? ……ああ、すまない。怖がらせたか。気にしなくていいよ。凍矢がフェミニストだろうが男尊女卑だろうが、そんな程度の低い理由なんてどうでもいいくらい愛してるから」
 なんて言われると俺としては沈黙するしか無いわけで。高校生程度の人生経験で打破出来るほど、この状況は軽くなかった。
「まぁ、だからアレだ。男だろうが女だろうが、好きな人を護りたいと思うことは自然なことだろう?」
「……ええ」
「だから私は凍矢を護る。凍矢だって私が危なかったら助けてくれるだろう」
 んん。まあ実際その通りなのだが、氷緒子さんが危なくなる場面ってのが全く想像出来ない。
 氷緒子さんの足場だけ地雷原というハンデの下で、百人の兵士を向こうに回して銃撃戦をやっても勝利出来そうだしなあ……。
「うん、食事中にこんな話をすることも無かったな、すまない」
「いえ、別に気にしてません」
「そうか。凍矢なら許してくれると思っていたよ。――そうだな、では楽しい話をしよう。寝言で私のことを“ひよこさん”呼ばわりした件についてだ」
「……ッ!?」
「寝言は本音とも言う。まさかとは思うが、私の前以外では“ひよこさん”と呼んでいるのでは無いだろうな」
「そ、そんなことありません!」
 これか!
 今回のオチはこれか!

シナリオ Crisis - 旧札幌偵察

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 以下は私、零が現在級友のmochimimiと作成中のノベルゲーム『攻略出来ないAVG IFs(いふす)』のシナリオ(の一部)です。
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 それでは以下シナリオです。

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 廃墟。
 既に世界から脱落した、小さな世界“だった場所”。
 人の手によって作り出され、人の生活を見守り、人の欲望の対象となり、そして他ならぬ人のエゴによって切り捨てられた街。
 旧北海道の主要都市・札幌(さっぽろ)。
 真っ先にソビエト連邦の侵攻に晒された都市。
 ソビエト連邦との和平条約を結んでいた当時、日本軍の主力部隊が中華人民共和国からに対抗するため九州方面に展開していたこともあり、ほとんどの抵抗を許されずに陥落し、破壊された都市。
 犠牲者は測定されなかった。
 どれほどの人間が死んだのか。
 どれほどの人間が生き残ったのか。
 それは分からない。
 ただ一つ言えることは、札幌戦の生き残りだという兵士が心を閉ざしてしまったという事実だけ。
 そこから何を想像するのか、あるいは創造するのかは個人に任せることにしよう。
 現在でも日本軍のみが保有する、自己再生能力を持つ金属の生成などの戦術機甲技術を求めて侵攻したソ連軍は、徹底的な焦土作戦を展開した。
 土地は焼き尽くされた。建物は爆破された。川は血に染まり、人は殺し尽くされた。僅かに破壊と虐殺から逃れた物や者が、しかしより一層にその激しさを連想させる。
 殺し合いなど起こらなかった。一方的な殺戮(さつりく)でしかなかった。
 戦争という言葉でしかこの惨状を表現出来ない人類は、未だ未完成な生命体であると認識するに、それは十分な事実だった。
 しかしそれは技術で劣り、自らの優位を数にしか求められなかったソ連としては当然のこと。
 確実に相手の戦力を削り、国力を削り、あわよくば日本を降伏させようとした作戦。
 宣戦布告すらせずに、国際的に非難されようとも作戦を強行したのもある意味ではソ連の覚悟であったのだろう。
 形振りに構っている余裕など、無かったのだろう。
 技術が欲しくて、戦力が欲しくて、優位が欲しかったのだろう。
 自分達ではない人達がそれを保持している事実が、認められなかったのだろう。
 自分よりも高く存在する人間を、破壊し尽くしてやりたかったのだろう。
 嫉妬。羨望。果て無き欲望。
 人類の負の一面。
 人として正しく、それ故に否定されがちな側面。
 それを実行するほどに、実行出来るほどにソ連の窮状は打開しがたかったのか。そんな疑問も、意味は無い。
 だが、最終的にはそれも失敗した。
 形振り構わぬ行動は勢いがあったが、それだけで勝てるほどに戦争は甘くない。冷静さを欠いた時点でソ連の結末は決定していたと言えるだろう。
 九州に派遣されていた日本軍第二機甲師団が函館(はこだて)に上陸してから二週間。それで全ては決した。
 援軍が派遣されて来るまでの三日。
 ソ連に勝機があったとすればそれだけの時間しか無かった。
 すなわちデッドライン。
 それを過ぎれば負けると、恐らくはソ連の上層部は分かっていたはずだった。
 彼らが求めた日本の技術は、今の世界でそれほどに突出しているのだから。
 正面衝突などもっての他。埒(らち)の外の問題だった。
 日本軍の強さに対する恐怖が、ソ連軍の残虐さを加速していたという事実は、本当に皮肉と表現する他に無い。
 日本軍第二機甲師団はソ連軍を殲滅しつつ北上し、稚内(わっかない)最終決戦をもって、日本国内から敵を全て排除するというある意味では期待以上の、そしてある意味では当然の結末を勝ち取った。
 それが、一年前。
 傷は今も癒えていない。

 以上。Crisis公式サイトより抜粋。
『凍矢ぁ。聞こえるかぁ?』
「ああ、大丈夫」
 現在の札幌に人は住んでいない。
 一つには昨年の戦闘によって日本全体の資材(人や物)が不足していることと、もう一つには政府が北海道攻防戦の後に正式に宣戦を布告してきたソビエト連邦との戦闘の最前線となる北海道の地に民間人を住まわせることをよしとしなかったことがある。
 何にせよ、日本列島という地形は、防衛には適していない。
 細く、長い。
 防衛線はすなわち日本の全てを指す。
 その全てを護ることなど出来ないと、政府は判断しただけ。
 ただそれだけの事実だった。
 ソ連が攻めてきた。“いい機会だから”北海道を切り捨てよう。それで少しは戦闘範囲が縮小されるだろう。本当に、誰かがそう判断しただけなのだろう。
 機体のモニターには、数が圧倒的に少なくなったビルディングに残る弾痕が生々しく映り、目を凝らせば風化しきっていない血痕さえも見つかるのではないかと思わせた。
 小さなコンクリートの破片が機体の足に当たり、軽い音を立てる。
 その音は人間の儚(はかな)さ。
 死んでしまったもの、失われたものの軽さ。
 死が尊いものだなんて幻想に過ぎないのだと、語る音。
 喪失は軽い。
 存在しないから。
 重さも無い。
『何でこのミッションを選んだんだぁ?』
「そういう気分だからさ……」
『んん。まだ本調子じゃないなぁ』
「思いの他ショックが大きくてな」
 旧札幌偵察。
 今回の作戦名だ。
 政府の方針で、半ば北海道を国土として放棄した日本軍第二機甲師団は現在青森を中心に展開している。
 命がけで北海道の地を取り返した兵士達の無念は如何(いか)ほどであっただろう。家族を殺された民間人達の怨嗟(えんさ)はどれほどだろうか。
 最初から内地だけを死守するという任務であったならば、失われずに済んだ命がどれだけあっただろう。
 死は軽い。人の命はすぐに消える。
 分かってはいても、割り切れない人だっているだろうに。
『このミッション、結構疲れるからあんまり好きじゃないんだけどなぁ……。敵もすぐに出てこないしさぁ』
「分かってる。これ一回だけだから」
『まぁいいけどさぁ。ミッションの選択は凍矢に任せてるし』
 旧札幌は今は日本ではない。
 勿論国際法上には未だ日本の都市ではあるが、事実上はソ連軍との緩衝地帯。網走方面に展開しているソ連軍との境界線だ。
 だから本来は空白地であった。
 にらみ合う両軍の間に存在する空白。
 ここが埋められることはすなわち戦端が開かれることを意味する。
 それはまたしても北海道の地で殺し合いが起こるということだ。
 俺のように北海道在住のプレイヤーからすれば、それは少しばかり重い――
 ――プレイヤー?
 そこで苦笑する。
 自分が今までゲームの世界に移入し過ぎていたことに気がついた。
 本当にCrisisの世界にいる兵士のような気持ちになっていたことに気がついた。
 これでは紫桜でなくても心配くらいするだろう。
「――っし」
 頬を軽く叩いて気合を入れなおす。
 何を暗い気持ちになっているんだ。
 おかしいだろう。
 何で喜んであげないのだ。
 親友(しろう)に恋人がいるなんて、それもあんな尽くしてくれるタイプだなんて、これ以上に喜ばしいことは無い。
 ……さて、少し心配をかけてしまった紫桜を安心させる意味でも、ここはいつも以上に気合を入れなければなるまい。
 Crisisはゲームだ。
 ゲームは楽しいものだ。
 つい一昨日にも同じことを考えていただろう。それを忘れるほどに、俺の記憶力は悪くは無いはずだ。
「小鳥遊少尉、聞こえるか」
『んぁ? どうした凍矢ぁ』
「気合が足りん!」
『……?!』
「弛(たる)んでいるぞ、少尉。札幌に異常が感知されたという重大事だというのに。貴様は日本を護る兵としての自覚が足りないのではないか!」
『…………。あぁ……。なるほど』と紫桜はヘッドホンでギリギリ聞き取れる程度に漏らし、『ハッ、申し訳ありません! これより任務に集中いたします!』と返した。
 どうやら分かってくれたようだ。
 こういうのは打ち合わせてからやるのでは意味が無い。それでは雰囲気が台無しだ。
 だからこそいきなりの掛け声だったのだが、紫桜はしっかりとその意味するところを読んでくれた。分かってるじゃないか、相棒。口の中でそう呟(つぶや)く。
『しかし在郷中尉。我々が札幌に到着し、探索を開始してから既に180(ヒト・ハチ・マル)秒が過ぎております。誤情報だったのでは?』
「少尉。貴様は日本軍観測班の精度を疑うのか?」
『まさか。彼らには今までも随分と助けられましたから。ですがここまで反応が無いとなると……。機体のエネルギー残量の問題もあります。まさかずっとこうして警戒しているわけにもいきますまい』
「……一理あるか。ならば――」

 警報。振動。

「小鳥遊少尉!」
『分かっていますよ、中尉』
 紫桜の機体は、近くにあったビルディングの陰(かげ)に隠れていた。反応が早いのも勿論だが、それ以上に決断が早い。
 こちらも紫桜とは別のビルの陰に機体を動かす。多少無理な体勢からの移動だったが、機体は問題なく追従してくれた。そこは流石に日本製の最新鋭機と言ったところだろう。
「長距離からの狙撃、か?」
『おそらくは』と既にこのミッションをクリアしている紫桜が“あえて”推測という形で自分の意見を口にした。大事なのは雰囲気である。
 狙撃。
 初弾が当たらなかったのは運が良かった(身も蓋も無い言い方をすれば、このミッションの最初の攻撃は必ず外れるように出来ている。理由はソ連側の軍備の質、ということになっている)。
「敵機自体は最大望遠でも視認出来ないが、弾道から推測すると、北側の斜面……あの辺りだな」
 僚機と共有出来るミッション・マップに、推測された地点をマークする。
 しかし当然ながら狙撃手がいつまでもそこにいるとは限らない。
 むしろ狙撃に失敗したならば迅速にその場から撤退するのが定石のはずだ。
 もしも狙撃手を補足し、撃破するならば、こちらも拙速(せっそく)を以って望む他には無いだろう。
「小鳥遊少尉――」
『分かっていますよ、中尉』
「ふん、先程からそればかりだな」
『付き合い長いですからね』と紫桜は笑った。戦闘中に、戦闘中だからこそ、この精神状態を維持出来る小鳥遊紫桜という少年の適性はやはり高いと言える。
 緊張し過ぎるでもなく、弛緩し過ぎるでもない。
 程よく糸を張り詰める感覚。
 それが出来る人間が、最終的には生き残る。しかしそれはあくまで可能性の問題で、実際には“運”としか表現出来ない何かしらの要因によって生死が分かれることも少なくない。
 ともあれ――
「分かっているなら行動に移してくれ。狙撃手を撃破する」
『了解。ではこの場は任せますよ』
 言って、紫桜の機体はブースタを最大まで展開する。
 青色の名残を残しつつ、全高十メートルほどの人型兵器は加速していった。
 紫桜に任せておけば狙撃手は大丈夫だろう。
 まさか紫桜を相手にしながらこちらを狙撃は出来まいと、憶測ではなく確信を持って、俺はレーダーに眼を落とす。
 赤色の光点が六つ……七つ……八つ。
 狙撃手と合わせると三個小隊ということになる。
 偵察、か?
 それとも何かの先行部隊?
 どちらにせよ、ここまで近づいてしまえば後は戦うしかない。
 もしかすると敵の機体のデータベースから情報を抜き出せるかもしれないし。まあ、いくらなんでもこんな最前線の機体に重要情報がインプットされている可能性は低いから、それは付属的な意味しか無いのだが。
 とまあ、紫桜の『この場は任せる』という発言の意味はこういうこと。
 このミッションの本当の敵(狙撃手は実は放置していても、一定距離以内に近づかなければ第二撃を放ってくることは無い。ボーナス対象というだけだ。このミッションはあくまでも市街戦がメインだ)ということになる。
「……ふう」
 と軽く息を吐く。
 ほんの僅かだけ思考を空白に染める。
 よし、大丈夫だ。
「――コンバット・オープン」

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